研修後インタビュー
Interview
01
山口県美祢市
生産作物:肉牛
研修の仲間と連携して、山口県の農業を次のステージへ
山口県美祢市で畜産業を営む梶岡牧場。
自社ブランドの黒毛和牛「梶岡牛」を生産するほか、敷地内でレストランを運営しています。お兄様とともに梶岡牧場の経営に携わる西山美貴さんは、畜産業の傍ら「山口県農村生活改善士」(※山口県農村生活改善士とは、優れた農村生活を実践し、活力あるむらづくり活動の中心的推進役となり、かつ、農村の女性対策・青少年の育成指導・高齢者問題等に理解と情熱を持ち、実践活動が期待される農村女性を市町長の推薦により知事認定する者)としても活動。自身の視野を広げ、地域の農業と暮らしの活性化のため、女性農業経営者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修への参加を決めました。「同じ志の仲間が見つかった」と話す美貴さんに、研修での経験をどのように活かしていくのか伺いました。
他分野と交流して、農業経営と地域活性化のヒントをつかむ
女性農業経営者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修に参加した経緯を教えてください。
梶岡牧場は、もともと祖父が始めた牧場です。父が跡を継いでからは、牧場の一角に直営レストラン「FIRE HILL」をオープンし、独自ブランドの黒毛和牛「梶岡牛」を提供しています。また、保育園児や小学生を対象にした陶芸体験教室など、地域に開いた取り組みも続けています。 幼いころは農業に抵抗があったのに、自然の成り行きで家業を手伝うようになりました。今では「食と命の大切さを伝えたい」という思いがしっかり私の中に芽生えています。その一方で、気になることもありました。それは畜産の世界しか知らないこと。農業経営に関わる価値観や判断軸がどうしても自分たちの基準に寄ってしまい、世間や市場が求めていることに目が行き届いていないのでは?と感じるようになったんです。そんなときに出会ったのが女性農業者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修(以下、本研修)でした。農業の他分野の生産者の方々と交流することで、もっと視野を広げられるのではと期待が膨らみました。 加えて、本研修参加の前年に「山口県農村生活改善士」に認定されたことも、本研修に参加する大きなきっかけとなっています。地域を盛り上げていくにはどうすればいいのか。リーダーシップやコミュニケーションについて学べるこの研修なら、活動のヒントが見つかると思ったんです。
豊洲市場の視察を通じて、自社ブランドの可能性が見えてきた
特に印象に残っている本研修プログラムはありますか?
正直なところ、本研修参加当初はどこか気が緩んでいたところがあって…。参加したことで目的を果たしたような気になってしまい「基本的なスキルは実践できているから大丈夫だろう」と。でもそれこそ、自分の基準でしか物事を見ていなかったわけです。けれども、ほかの研修参加者たちの境遇や意識の高さに触れるうち、自分には覚悟や当事者意識が欠けていたことに気付きました。その瞬間から講義への向き合い方が変わり、研修で得た経験や学んだスキルを美祢市に持ち帰らなくてはと強く思うようになりました。本研修プログラムの中で特に印象深いのは豊洲市場の視察です。広域市場の仕組みや視察・商談における基本的なノウハウを学ぶとともに、自分たちの市場調査が圧倒的に不足していたことを痛感しました。この市場で勝負するためには、「何を強みとして伝えるのか」「どの土俵で評価してもらうのか」を明確にし、戦略的に挑む必要があると気付いた瞬間でした。 今後は、大都市圏の市場を一つの目標として捉え、市場調査・情報収集・商品設計・伝え方を磨きながら、どのようにして広域市場に食い込み、継続的な取引につなげていくのかを本気で考えていきたいと思います。
仲間とのネットワークを活かして、地域の農業を盛り上げる
今後、本研修で得た経験をどう活かしていきたいですか?
地元で活躍する女性農業経営者と連携し、美祢市をはじめ山口県の農業を盛り上げていきたいです。じつは本研修の参加者のうち、私を含めた4名が山口県の女性農業経営者だと分かりました。私たちの生産物も多彩で、個性豊かな顔ぶれです。私たち4名は県内東部地区と西部地区と生産拠点は分かれていますが、今後はそれぞれの地区で行われているマルシェを共催したり、それぞれの知恵を持ち寄り、山口県の農業を盛り上げていくことに挑戦したりできればと思っています。本研修後も私たち4名の交流は続いており、最近は農業の雇用問題について話す機会も増えてきました。技能実習生のスムーズな受け入れ方や制度の活用方法など、私一人ではたどり着けなかった情報にも触れられるようになりました。
また、研修を通じて梶岡牧場が抱える課題もより具体的になりました。人材育成の仕組みを整える必要がありますし、そのためには農業の魅力をもっと発信していくことが欠かせません。豊洲市場の視察ではブランド戦略の重要性にも気づかされました。価値を未来へつなぐためにも、まずは「小さく強く稼ぐ」牧場経営を追求していきたいですね。
研修後、販路拡大を見据え、美貴さんは「梶岡牛」を使ったビーフジャーキーの価値を見直し、改良に着手。「梶岡牛」の美味しさをより手軽に味わってもらうのが狙いです。新しいパッケージには「JERKY?NOT
JERKY!!」の文字が。そこにはビーフジャーキーの常識を覆すという、生産者の自信とプライドがあります。新たな一歩を踏み出した梶岡牧場から、これからも目が離せません。
Interview
02
石川県河北郡
生産作物:野菜(ほうれん草・小松菜等)
一生ものの出会いが教えてくれた、未来を切り拓く力
笠間令子さんは、石川県河北郡内灘町にある笠間農園に嫁いだことをきっかけに農業の世界へ。作業療法士の経験を活かして、2017年から「農福連携」(※農福連携とは、障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組のこと)にも取り組んできました。県の「農福連携アドバイザー」としてマッチングで農家さんと福祉事業所への架け橋役を担うなど活動の場を広げるなかで、もっと石川県の方々に農福連携の魅力を伝えるための発信力を身につけたいと思う場面もあったといいます。「年齢的には今回がラストチャンス!」との思いで参加したのが、全国の女性農業経営者が集う事業推進力&チームマネジメント力アップ研修。そこで令子さんはどんな出会いと学びを得たのか、お話を伺いました。
今後も農園で「農福連携」を続けていくために
女性農業経営者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修に参加した経緯を教えてください。
女性農業者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修(※以後、本研修と記載)に参加したのは、私が取り組んでいる「農福連携」が関係しています。「農福連携」とは、農業と福祉事業を掛け合わせた取り組みのこと。障害のある人や就労が難しい人が農作業を通じて社会参加を目指すもので、いわば畑で行うリハビリプログラムのような仕組みです。行政でも普及を後押ししており、私も作業療法士としての前職での経験を活かして、石川県の「農福連携アドバイザー」を務めています。県外で講演をする機会も増えてきましたが、自分の発信力に課題を感じることもしばしば。別の業界に長くいたこともあり、農業仲間とのネットワークが狭く「農福連携」の重要性を十分に伝えきれていないような気がしたんです。また「農福連携」は、ボランティア精神だけで成り立つものではありません。取り組みを継続していくためには、ビジネスとして事業を確立しなくてはならないんです。けれども、具体的な事業のビジョンが描けていたわけでもなく、改めて経営スキルを学ぶ必要があと痛感しました。見方を変えるなら、周囲から信頼されるリーダーを目指すことでもあります。本研修には各地から農業経営者が集まり、さまざまなスキルを学べると知り、参加を決めました。
仲間たちが教えてくれた「農福連携」の可能性
研修時の印象深いエピソードがあれば教えてください。
研修に参加する女性農業経営者との出会いは、とても刺激的でした。私の知らないところで、これほど多くの仲間たちが頑張っているんだなあって。農作業をしていると、今でも研修に参加していた皆さんの笑顔が浮かんでくるんです。研修での出会いは一生ものの思い出ですね。うちで栽培している小松菜を試食してもらった際、みんなが「おいしい!」と喜んでくれたことも忘れられません。小松菜は個性が出しにくい野菜なので、自分でも気付くことができていなかった魅力を教えてもらえました。研修参加者の中には「農福連携」に興味を持ってくれる人もいて、「『農福連携』を始めたいけれど、何から手を付けていいのか分からない」、「一度挑戦してみたけど、上手くいかなかった」など、生の声が聴けたのは有意義でした。研修の期間に、睡眠と農業の関係性を調べて、障害者が農作業した日には睡眠の質が上がったという結果が国際論文となったので、その成果を農林水産省に報告する機会があったのですが、十人ほどの研修仲間が同席してくれて心強かったです。私のモットーは「自力有限、他力無限」。自分一人の力では限界があるけれど、仲間がいればきっと道は拓ける。そう強く感じた瞬間でした。
「ユニバーサル農園」を運営して、農業と福祉をつなげたい
今後の展望を教えてください。
今回の研修を通して、目標達成に向けたアクションプランをつくることができました。当面の目標は、障害のある方や就職が難しい方を受け入れつつ、事業としても成り立つ「ユニバーサル農園」を運営すること。安心して過ごせる居場所をつくりながら、しっかりと売り上げも上げ、無理なく事業を続けていける形にしていきたいです。そのためには、資金調達や施設整備といったハード面の準備が欠かせません。また、私が「ユニバーサル農園」に深く関わるようになると、笠間農園の体制にも影響が出てしまいます。そのため、今後は人材の採用や育成にも力を入れ、組織としての土台を整えていかなくてはと思っています。従業員同士がより連携しやすくなるよう、仕事の「見える化」にも少しずつ取り組んでいけたら良いですね。
農業は、地域社会と切っても切れない関係にあります。地域に根ざした産業だからこそ、福祉の受け皿も担えるのではないでしょうか。そうした視点を大切にすることが、結果として農業を次の世代につないでいくことになると感じています。「農福連携」は、それだけの可能性を秘めている。豊かな社会を目指して、一歩ずつ着実に取り組んでいきたいです。
農業と福祉を結び、さらに障害のある人と農園で働く従業員をつなぐ――。本研修で学んだ「つなぐ力」・「伝える力」を胸に、令子さんはさまざまな場面で調整役を担っています。「『農福連携』はもちろん、石川県全体の農業を盛り上げていきたい」。研修の仲間の笑顔に背中を押されながら、令子さんの挑戦はこれからも続いていきます。
Interview
03
兵庫県宍粟市
生産作物:水稲、トマト、メロン等
家族とのコミュニケーションを見直して、
取り組んでいた事業継承がさらに前進
畜産農家に生まれ、農業とともに人生を重ねてきた藤木悦子さん。藤木農園に嫁いでからは「やまさき
ゆめメロン」をはじめ、トマト、とうもろこし、お米などを栽培しています。地元の農業委員会の委員でもあり、地域の担い手育成にも意欲的です。加えて、藤木農園にも世代交代の波が訪れています。今後訪れる事業継承を見据えた準備を進めるためにも、女性農業経営者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修に参加。習得したコミュニケーョンスキルをどのように活かしていくのか、お話を伺いました。
女性ネットワークの活動に活かすためにも、コミュニケーションスキルを磨きたい
女性農業経営者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修に参加した経緯を教えてください。
一番の目的は、コミュニケーションスキルを身に付けることでした。コミュニケーションスキルは、私が所属している「ひょうご農業委員会⦆女性ネットワーク」の活動に活かせると思いました。この組織は、地域の農業への理解を深めるために、農業の魅力を伝えたり、新規就農者をサポートしたりしています。継続的に活動していくためにも、情報発信の力を高めていくことが欠かせないと考え、女性農業経営者のための事業推進力&チームマネジメント力アップ研修(以下、本研修)へ参加しました。コミュニケーションスキルを学ぶことはもちろん、私たちの活動を改めて見つめ直すきっかけにもなると感じていました。また、三人の子どもたちが藤木農園で働いています。少し早いのかもしれませんが、世代交代を見据えて農園のこれからを活発に話し合っていく時期に差し掛かっています。数年前から何度かやりとりを重ねていたとことはあるのですが、言わなくてもわかってくれるだろうという甘えから話し合いの頻度が少ない傾向にありました。しかし、本研修で受けたコーチングで、話し合いの方向性ややり方をサポートしてもらい、再度事業継承の話し合いを再開することができました。以前の失敗を踏まえ、コミュニケーションスキルはとても重要だと改めて感じました。⦆
これまで意識してこなかった、コミュニケーションの本質に触れる
特に印象に残っている本研修プログラムはありますか?
「営業力アップのための交渉術や商談テクニックを学ぶ」という講義は興味津々で受けました。当日は班に分かれて、大家さんに家賃交渉するシミュレーションを体験したのですが、私はこの手の駆け引きがどうも苦手で。相手側のことも考えると最低限のラインで納得してしまい、希望を載せて交渉してみることから逃げてしまうこと少なくありませんでした。⦆もしかしたら、家族と農業の話をするときも、その空気が出ていたのかもしれません。講義を通じて、交渉はお互いに理解を深め、歩み寄ることが大切なのだと気付きました。他の班では、話し合いが得意な人を代表に立てて、交渉に臨む班もありました。たしかに、場合によっては他人の力を頼るのも大事ですよね。交渉術一つとっても個性が表れて、とても勉強になりました。
また、講義で学んだことと自分の経験則が通じる部分も多かったです。例えば、品目の選定であったり、求められている収量であったり、これまで私たちが考えてきた市場の需要は、大きく外れていなかったんだなと感じ、自信につながりました。
次世代の農業経営者を育てるために、もっと学びの機会を
研修の前後でご自身が変わったことありますか?
本研修後、子どもたちが挑戦したいことや不安に思っていることを話す時間を持つようになりました。なんとなく気付いてはいたものの、言葉にすることがほとんどなかったので、自分の中でも少し整理がつきました。お互いが本音を見せ合えば、たとえ意見が食い違っても険悪な雰囲気にはなりません。相手を否定せず、ポジティブな話題に徹していたことも良い方向に働いたのでしょう。また今まではどうしても話し合いの中で数字に特化しがちで、 未来に対する明るい気持ちとか、精神面をゆっくり聞く機会を持てていなかったことが、話し合いがなかなか進まない原因だとあらためて気づくことができました。⦆本研修参加当初の目標どおり、農業委員会での活動にも変化が出てきました。農業委員会に活動報告をしたり、予算確保を打診したりする際に、研修で学んだ交渉術やプレゼン手法がそのまま役立っています。今後は農業の現場でも女性の登用が増えていく可能性がありますし、いずれ農業委員会のような団体で理事や役員を任されることもあるかもしれません。喜ばしいことではありますが、突然リーダーシップを発揮しろと言われても難しいものです。これからの農業を底上げしていくという意味でも、今回のような研修がもっと増えてくれるとうれしいですね。
本研修に参加したことで、自身の強みと弱みが見えてきた悦子さん。今では、自分を知ることがリーダーシップの基礎になるのだと考えるようになったといいます。さらに「研修で学んだスキル、出会った仲間たちは宝もの」と振り返ります。これまでの経験を活かしながら、藤木農園なりの農業経営を探求し続けています。