2023年3月17日
スタッフコラム│日本初の「農業コース」開校に向けて。多様性のある畑で学び、多様性のある社会へ!
みなさまこんにちは。
マイファームの湯浅(ゆあさ)と申します。
今回は、私が携わっている2つの業務
◎ アグリイノベーション大学校の運営
◎ 札幌静修高校通信制課程アグリコースの開校に向けた取り組み
について紹介させていただきます。
■農業高校の教員からマイファームに
業務のお話の前に、まずは私がマイファームに入社した経緯について少し書かせていただきます。
私がマイファームに入社した理由は、「農業を志す人をサポートしたい」の一点です。
入社前、10年以上農業高校の教員として働いていた私ですが、社会の実態と乖離のある農業教育に疑問を感じる点がありました。
もちろん、公立高校における農業教育の社会的意義は大きいですし、魅力もたくさんあります。
しかし、担当した生徒のうち、卒業後に農業関係の進路を選択する生徒は全体の10%もいませんでした。
ほとんどの生徒が「倍率が低いから」「勉強が嫌いだから」「中学校の先生に勧められたから」という理由で農業高校に入学し、「農を仕事にしよう」というステップまで及ばないまま、卒業していきます。
(※私が働いていた農業高校の場合です)
私自身の力不足・経験不足で、農業の魅力を生徒に伝えきれていない実感がありました。
どうすれば農家になれるのか、実際の農業の世界はどんな世界なのか、知らないままではいけないと思い、放牧養豚の仕事を経て、マイファームに入社しました。
■入社後の日々は刺激だらけ
入社させていただいたマイファームでの仕事は、目からウロコの発見ばかりで、日々刺激を受けています。
冒頭にも書きましたが、私は「アグリイノベーション大学校」という、社会人向けの週末開講の農業学校の運営業務に携わっています。
アグリイノベーション大学校は、有機農業の原理原則を軸として、「農業技術」と「農業経営」の両方が学べる学校です。
その原理原則である「有機農業」自体、私にはほとんど初めての経験で、その理論と実践はこれまでの私の常識を覆すものでした。
とりわけ、『植物の生きる力を最大限に引き出し、健康で丈夫な作物を栽培する』という有機農業の原理原則は、ただ「野菜を作る」ということのみに焦点をあて、それ以上に意識を向けずに思考停止していた私には、大きな衝撃でした。
現在、アグリイノベーション大学校の事務局として関西校の実習運営にあたったり、受講生の方々のサポートをしたりしながら、日々の業務を行っています。
全国的に農村部が苦境に立たされるなか、卒業生の方々が農業×〇〇のビジネスモデルを展開し、それぞれの地域で活躍しながら新たなかたちの農村として活気ある姿を取り戻してほしい、そんな思いを持ちながらアグリイノベーション大学校の事務局スタッフとして働いています。
↑ 仕事仲間である運営メンバーと。(男だらけの1枚…)
■新たなミッションは、通信制高校の開校!
そんな中、昨年末より札幌静修高等学校の業務のお声掛けをいただきました。
札幌静修高等学校は、創立から100年を超える伝統ある高校です。
2021年にマイファームの代表でもある西辻が高校の理事長に就任し、次の100年に向かってさらなる挑戦を続けています。
その札幌静修高等学校が、日本で初となる農業コースをもつ通信制課程を設置し、2023年4月より開校することになりました。
その開校に向けての準備業務に携わらせていただくことになりました。
理事長の西辻は教育指針として、
1. 学校教育とは、人が人に伝えていくものであり、人が中心である。
2. 人は学校以外の環境からも学びを得ることができる。
3. 変化に強いものが生き残る時代を生き抜く。
の3つを打ち出し、社会に求められる学校を目指しています。
その施策の一つが、通信制課程「アグリコース」の開校です。
東京・大阪・京都・兵庫・福岡の全国5拠点に実習圃場と学習支援施設を設定し、札幌本校と連携しながらスタッフの研修を含めた生徒の受け入れ準備を現在進めています。
■なぜ、通信制高校で農業コースなのか?
私立高校における「農業コースをもつ通信制課程」の設置、これは高校教育界において大きな革新です。
なぜなら、文部科学省の定める「学習指導要領」の枠を超えた、新しい農業教育のスタイルを作ることができるからです。
高等学校の農業科には様々な科目が設定されていますが、それぞれ学習指導要領に学習内容のガイドラインが設定されています。
そのガイドラインに沿って実習や座学が展開されますが、逆を言えばこのガイドラインから大きく外れた実践は教育課程上できません。
札幌静修高校のアグリコースは、教育課程に含まれない独自のコースだからこそ、マイファームの蓄積されたノウハウや知見、圃場の特性を活かした実習展開や学びの提供が可能です。
例えば、通常の教育課程では
「〇〇の野菜を育てるためにはN肥料を△kg/10a入れましょう。」
「株間〇cmの2条千鳥で植えましょう」
「発芽の3条件を覚えましょう」
という内容を1年生で学びます。
それに対し、アグリコースでは「生物多様性のある畑(様々な生物の存在を許容する耕作地)」を作るところから始まります。
整然と管理された圃場で野菜を作るのではなく、様々な野菜や雑草、土壌微生物や昆虫が雑多に生息する圃場環境へと移行させ、複雑に絡み合う生物同士の関係のなかに飛び込むことで、人間の五感を刺激する学びを体感してもらいたいと考えています。
■多様性のある畑に学び、多様性のある社会へ
日本の農業教育は、戦後の食糧難から日本を脱却させるため、いかに効率よく多収するかを考えた「管理型農業」が主でした。
日本が豊かになり、農業の多面的な機能が注目され、新しい農とのかかわり方へ高校農業教育もシフトしていきましたが、依然として根幹となっているのは(教科書に中心的に示されているのは)管理型の慣行農法です。
前述したように、農業高校を卒業する生徒のうち、農業関連の進路を選択する生徒は極少数。
であるにも関わらず、一生懸命に『多収のための農業理論』を教えています。
ですが私は、「農業を学ぶ」とともに「農業から学ぶ」姿勢が必要だと思いますし、『ココロもいっぱいになる農業』こそが高校生の豊かな学びにつながると考えます。
自身の手でまいた種が芽を出し成長する感動。
植物がたった80日で2mを超えて成長する不思議。
そこに共生する生物の発見。
食糧生産の大切さ。
そういった様々な気づきを、自分のペースで自分なりに学ぶスタイルを受け入れてくれる包容力が、「生物多様性のある畑」にはあります。
■日本で唯一の「農業コース」開校に向けて
静修高校のアグリコースでは、評価もつけません。テストもありません。
農業から何を感じとるのかは、生徒一人ひとり異なります。
各拠点のスタッフが生徒と関わりながら「?」を投げかけ、それを一緒に考える。
今日はどの植物と語り合い、どの教材を使って学ぼうか、その日の天気や植物の状態、生徒の様子によって変えていける。
そんなアグリコースの実習を作りたいと考えています。
自宅で独学しながら、学習拠点でスタッフにサポートを受けながら、本校の先生に教わりながら、働きながら、農業を実践する。
通信制過程だからこそ、多様な学び方を生徒自身で選ぶことができます。
日本で唯一の高校通信制課程に設置された農業のコース、その意義を広く認識してもらい、「静修高校のアグリコースで学びたいから、全日制ではなくあえて通信制を選びました」と言ってもらえるような学校になればと思います。
自然の包容力の中で、生徒が豊かな感性を磨き、目に見えない世界を想像することを楽しみ、自ら考えて実践する力を養う。
そしてアグリコースを卒業するときには、多様性を認め合える自産自消できる社会を形成する一員となってくれれば…と願います。
■最後に
何はともあれ、どの業界においても「人材育成」に勝る重要な課題はありません。
そのために、自分自身がさらに情熱をもって学び続けたいと思います。
アグリイノベーション大学校、静修高校アグリコースを、今後ともよろしくお願いいたします!
▽社会人向け農業スクール「アグリイノベーション大学校」ウェブサイト
https://agri-innovation.jp/
▽札幌静修高校 通信制「アグリコース」ウェブサイト
https://tsushin.sapporoseishu.ed.jp/#agri
★最後までお読みいただきありがとうございました!
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